
日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2025年5月の訪日台湾人数は53万8,400人に達し、前年同月比で15.5%の増加を記録し、5月としては過去最高を更新しました。ゴールデンウィークを避ける傾向が見られたものの、台北〜米子間の新規就航や、クルーズ船の寄港、地方路線の増便が訪日需要を後押ししました。1月〜5月の累計でも約270万人が訪日しており、中国、韓国に次いで第3位の規模を誇る重要市場です。
台湾は親日国としても知られ、日本文化や観光地に対する関心が非常に高いことが特徴です。特に20〜40代の若年〜中堅層を中心に、旅行前の情報収集や口コミチェックにSNSを積極的に活用する傾向が強く、SNSはインバウンド戦略における「最初の接点」として極めて重要な役割を担っています。
本章では、台湾でのSNS利用状況を5つの観点からデータで紐解き、各プラットフォームの特性とユーザー傾向を分析します。マーケティングやインバウンド戦略に取り組む上での基礎知識として、ぜひ活用ください。
1. SNS利用率(2024年1月/DataReportal調査)

台湾で最も利用されているSNSは、LINE(90.9%)。国民の9割以上が日常的に使っていることから、LINEはもはや“通信インフラ”と呼べるほどの存在です。単なるメッセージアプリにとどまらず、ニュース配信、決済、ポイント連携、企業公式アカウント、チャットボットなど、複合的なサービスを一つに集約しており、幅広い年代層の利用を可能にしています。
続いてFacebook(85.1%)とInstagram(68.1%)が高い利用率を維持しており、この3つは台湾市場での“必須チャネル”といえるでしょう。Facebook Messenger(61.0%)も単体で高い利用率を誇っており、LINEと併用して使い分けるケースも多く見られます。5位のTikTok(37.6%)は、若年層を中心に急速な拡大を続けており、ショート動画文化の定着とともに影響力を増しています。
このような高いSNS普及率を背景に、台湾向けの情報発信では「何を使うか」ではなく「どう組み合わせて使うか」がより重要になります。LINEやFacebookは“誰でも見ている”前提で使い、TikTokやX(旧Twitter/31.6%)などは、特定のオーディエンス層に向けて戦略的に設計する必要があります。つまり、プラットフォームを選ぶのではなく、ターゲットとコンテンツによって設計する「複数SNSの役割分担」が鍵になります。
台湾SNS好感度ランキング

「利用している」だけでなく「好きなSNS」として挙げられたのは、やはりLINE(48.1%)が圧倒的な首位でした。これは機能面の豊富さだけでなく、ユーザー体験の快適さや、感情的な結びつきが強いことを示しています。親しみやすいUI、かわいらしいスタンプ、広告が比較的少ないタイムライン設計などが、日々の使用をポジティブな体験に変えており、“愛着のあるツール”として定着しています。
2位はInstagram(16.6%)、3位はFacebook(14.3%)。この2つは主にビジュアルコミュニケーションや情報収集の手段として評価されていますが、LINEとの好感度の差は非常に大きく、あくまで“目的ありき”で使われている印象が強いです。TikTok(4.3%)は利用率の高さとは裏腹に「好き」と感じているユーザーは少なく、エンタメ性の強さが長期的な好感度につながりにくい傾向が見られます。
この結果から、マーケティング施策においては、単純なリーチだけでなく「ユーザーがポジティブな気持ちで接しているSNSかどうか」を重視することが求められます。特に信頼形成が重要な観光や地方PRでは、好感度の高いLINEやInstagramを軸に置き、TikTokは話題作りや一時的な注目集めに位置づけるのが現実的な戦略です。
3. 目的別に見る台湾のSNSトレンド

SNSを使う主な理由として最も多かったのは、「友人や家族との連絡」(53.4%)。これはSNSの原点ともいえる機能であり、台湾では今なおその役割が最重要視されていることを示しています。とくにLINEの圧倒的な普及率は、まさにこの“つながりニーズ”を忠実に満たしている結果です。
次に多かったのは、「暇つぶし・スキマ時間の消化」(47.5%)。通勤・通学の移動時間や待ち時間など、日常生活の中で自然にSNSが入り込んでいる様子がうかがえます。さらに、「今何が話題かを知る」(33.9%)という情報収集目的も上位に入っており、XやInstagram、Facebookで話題を探すユーザー像が浮かび上がります。
これらの目的を踏まえると、SNSごとに求められるコンテンツ設計が大きく異なることがわかります。例えばLINEでは「身近で実用的な情報」、TikTokやInstagramでは「視覚的に楽しく、暇つぶしになる内容」、Xでは「即時性と意見性のある話題」が刺さりやすくなります。単に同じ情報をすべてのSNSに投下するのではなく、利用目的に応じた“SNS別コンテンツ戦略”を明確に持つことが成功の鍵です。
4. SNSアプリ別 月間平均利用時間(2023年Q3/Android)

ユーザー1人あたりの月間平均利用時間を見ると、TikTok(23時間54分)がトップで、ほぼ1日1時間に相当します。続いてYouTube(23時間12分)、Facebook(20時間21分)、LINE(19時間19分)と続きます。特にTikTokとYouTubeの2つが“映像系SNS”として圧倒的な滞在時間を誇っており、コンテンツの没入性が際立っています。
このデータは、「視覚コンテンツ」と「アルゴリズムの設計」がユーザーの時間を支配する大きな要因であることを示しています。TikTokのように次々と動画が流れる設計や、YouTubeの関連動画推薦機能は、ユーザーの“やめどき”を曖昧にし、長時間の滞在を生み出します。
一方、LINEは毎日何度も開かれるアプリであるにもかかわらず、1回あたりの使用時間は短く、「必要な情報をすばやく得る」ためのツールとして機能しています。これを踏まえると、LINE上でのコミュニケーションは“短くシンプル”に徹するべきであり、長文や複雑な導線は逆効果になりやすいと言えます。TikTokやYouTubeでは逆に“滞在時間を稼ぐ構成”が鍵となり、動画の冒頭数秒にインパクトを置く設計が必要です。
5. SNS別に見る台湾のWeb誘導戦略(SNS→Web)

SNSからWebサイトへのアクセスを誘導した割合では、Facebookが66.2%と圧倒的なシェアを占めています。これは他のSNSと比較してリンク共有が自然に行えるUI設計であること、さらに30代以降のユーザーが多く、テキストベースで情報を読もうとする傾向が強いことが主な理由です。
2位のInstagram(9.4%)、3位のX(8.6%)は、いずれも視覚訴求には強いものの、リンククリックの導線が弱く、実際のWeb誘導には不向きな面があります。特にInstagramは、投稿内でURLを直接タップできない仕様がネックとなり、プロフリンクやストーリーズを経由しない限りアクセスにつながりません。
この構造を理解すると、コンバージョンや予約導線を設計する際は、Facebookを主軸に置いた方が効果的であることが分かります。特にホテル、観光地、イベント情報など「最終的にWebに誘導したい」タイプの情報発信では、Facebookへの投稿や広告出稿を積極的に活用すべきです。視覚的なブランディングはInstagram、話題拡散はX、エンタメ訴求はTikTok、といった役割分担がより現実的かつ戦略的な選択肢となります。
まとめ:台湾SNS戦略に活かすべき視点
台湾では、SNSの利用率や好感度、滞在時間、Web誘導力において各プラットフォームごとに明確な特性が見られます。これらのデータを踏まえると、SNSは「一括運用」ではなく、目的別・役割別に設計することが不可欠です。
まず、LINEやFacebookのような日常的に使われるSNSは、情報接触や信頼形成、予約導線などに活用でき、比較的広い年代層に届きます。一方、TikTokやInstagramは、エンタメ性が高く、滞在時間の長さを活かして認知拡大や感情的な訴求に向いています。
SNSごとの「得意領域」を理解した上で、どのターゲットに、どの段階で、どのコンテンツを届けるかを考えることが、最適なチャネル選定と成果に直結します。加えて、リンク遷移を狙う場合はFacebook、能動的関与を促す場合はTikTok・Instagram、即時連絡にはLINEといったように、行動導線に合わせた運用設計も重要です。
台湾はSNS浸透率が高く、ユーザーのリテラシーも成熟している市場です。だからこそ、各SNSの特性に寄り添った、目的別・段階別のコミュニケーション設計が結果を左右する鍵になります。今後の施策立案では、単なる投稿頻度や広告出稿にとどまらず、「届け方」そのものに戦略的な視点を加えることが求められます。
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