インバウンドビジネスを成功させるためには、「どの国から」「いつ」多くの観光客が日本を訪れるのかを正確に把握することが重要です。日本政府観光局(JNTO)によると、2024年9月の訪日外国人数は287万2,200人に達し、前年同月比31.5%増、2019年同月比26.4%増加、8か月連続で過去最高を更新しました。
今回は、訪日観光客数を国別にまとめた「訪日インバウンドカレンダー」をご紹介します。
1. インバウンド市場全体の動向と訪日需要が増えるタイミング
こちらの記事では、最新の国別総支出額に基づいて、経済的に重要なインバウンド市場を取り上げ、以下の国々について詳しく見ていきます:中国、米国、台湾、韓国、香港、オーストラリア、タイ、シンガポール、カナダ、英国、フランス、フィリピン、ベトナム、インドネシア。14市場の中でも、9月には過去最高の観光客数が記録されました。
日本政府観光局(JNTO)のデータを元に、2017年から2024年までの月別訪日外国人数を集計しました(新型コロナウイルスの影響を受けた2020年から2022年を除く)。このデータに基づき、訪日需要が高まる時期や、海外客の長期休暇や季節のイベントといった要因を踏まえた「インバウンドカレンダー」を作成しました。
訪日観光客の増加時期は国ごとに異なりますが、市場全体の傾向として、訪日需要が高まるのは以下の時期です:
4月:桜シーズン
7月:夏休み期間
10月:紅葉シーズン
12月:お正月やクリスマス、雪景色が楽しめる季節
2024年の夏休みシーズン(7月)には、コロナ前後の水準を大幅に超え、過去最大の訪日者数を記録しました。また、12月から1月にかけての期間には、アジアやオーストラリアからの観光客が多く日本を訪れています。
こうしたデータを基に、効果的なプロモーション戦略を立てることが可能です。
2. 各国の祝日と長期休暇時期の違い
各国の祝日には共通点もありますが、長期休暇のタイミングには地域ごとに特徴があります。
・ヨーロッパ・北米:12月のクリスマスから年末年始にかけて長期休暇を取ることが一般的です。
・アジア:2月の旧正月が長期休暇となるケースが多いです。
・オーストラリア:南半球に位置するため12月~1月が夏にあたり、多くの人がクリスマスと夏休みを兼ねて新年に海外旅行をします。
また、春や秋には各国特有の祝日があり、有給休暇と組み合わせて活用されることも期待できます。4月頃や秋のシーズン全体が観光のピークとなる可能性がありますが、夏休みは比較的長期休暇が期待されにくい傾向があります。
東南アジアは11月-12月で長期学校休みが多い国が多く、仕事も休み取りやすい時期なので、大家族で旅行する方が多いです。
有給休暇についても地域差があります。
・ヨーロッパ:法定で有給休暇が手厚く保証されており、フランスでは年間25日(実質30日以上)、イギリスでは最低5.6週間(土日祝を含む)の休暇が義務付けられています。
・アジア:勤続年数に応じて有給休暇が増加する仕組みが多く、例えば台湾では最長30日、韓国では最低15日の休暇が付与されます。
・アメリカ:アメリカ企業では有給休暇は法的義務ではなく、福利厚生の一環として設定され、一般的には、年間で2〜3週間程度の有給休暇を設定している企業が多いです。
こうした休暇制度の違いがインバウンド観光に大きく影響を与えています。特にヨーロッパでは若年層がターゲットにしやすい一方、アジアでは長期間勤務するシニア層が多く、十分な休暇を活用して旅行に出かける傾向があるため、観光市場にはそれぞれ独自の特徴が見られます。
3. 各主要訪日国の月別訪日外客数
各国のグラフは、「国籍 月別 訪日外客数」日本政府観光局(JNTO)をもとに作成されており、2017年から2024年までの(2020年~2022年のコロナ期間を除く)5年間の訪日インバウンドを示しています。2024年のデータは赤い線で表示され、最新の情報として9月までが反映されています(10月以降のデータは未発表)
それでは、訪日観光客の支出が多い国から順に各国のグラフを見ていきましょう。
3.1 中国人観光客:訪日インバウンドカレンダー
訪日中国人観光客の数は、冬休みの旧正月シーズンには意外にもそれほど多くありません。日本の都市部では、近年、春節(旧正月)前後に市中免税店が積極的にプロモーションを行っている様子が見受けられますが、実際の訪日者数は予想ほど多くないのが現状です。
むしろ、7月や8月の夏休みシーズンに訪日客数のピークを迎える傾向があります。その他、1月の冬休みシーズンや4月の桜のシーズンには若干の増加が見られます。
3.2 米国人観光客:観光客:訪日インバウンドカレンダー
2017年以降、アメリカからの訪日観光客の来日タイミングには大きな変化がなく、安定した傾向が見られます。特に、3月から4月の桜シーズンにはイースター休暇の影響もあって訪日者数が増加し、夏休みシーズンの6月から7月にかけてピークを迎えます。また、10月には紅葉需要もあり、夏の観光シーズンから再び盛り上がりを見せる時期となっています。
3.3 台湾人観光客:訪日インバウンドカレンダー
台湾からの訪日観光客は、年間を通じて安定した来日傾向を示しており、日本に近いという地理的要因もあり、特定のシーズンに限らずさまざまな季節を楽しむために訪日するケースが多いようです。特にリピーターが多く、「長期休暇だから日本へ」というよりも、季節ごとの魅力を求めて訪れる傾向があります。
月別の訪日外客数の推移を見ると、この傾向は顕著に表れています。7月から8月の夏休みシーズンにはピークが見られる一方、4月の桜や10月の紅葉を楽しむために来日する観光客も多く、これらの季節に向けたプロモーションが効果的と言えるでしょう。
3.4 韓国人観光客:訪日インバウンドカレンダー
韓国からの訪日観光客は、他国と比べて紅葉シーズンの需要は少なく、ピークはお正月から2月にかけての冬休み・春休みシーズンです。
2番目の大きなピークは、7月と8月の夏休みシーズンに見られます。これは、日本人が週末を利用して韓国に旅行するように、韓国からの観光客もまた、日本を国内旅行の延長線上として気軽に訪れる旅行先と認識しているためです。
グラフを見ると、2019年に韓国からの訪日観光客数が大幅に減少したことがわかります。それは日韓関係の冷え込みを受け、訪日客数は前年より25.9%減少し、日本製品の不買運動や航空便の減便が影響したとされています。
3.5 香港人観光客:訪日インバウンドカレンダー
香港からの訪日観光客は、比較的9月の需要が少なく、7月と8月の夏休み・バカンスシーズン、そして12月のクリスマス休暇シーズンにピークを迎えます。次に、旧正月やイースターが続く3月にも訪日客が増える傾向があります。
台湾と同様に、地理的な近さと旅行好きな文化が影響し、訪日リピーターが多い一方、特定のシーズンイベントによる変動は少なく、主に休暇やバカンスのタイミングで訪日する傾向が見られます。
3.6 豪州人観光客:訪日インバウンドカレンダー
オーストラリアからの訪日観光客は、日本の冬にあたる時期がオーストラリアの夏となるため、オーストラリアの夏休みが日本の冬と重なり、12月から1月、4月のイースター、9月が訪日観光のピークとなります。特に今年は円安の影響を受け、2024年の訪日オーストラリア人客数が大きく伸びていることが確認できます(赤線折れ線グラフ)。
3.7 タイ人観光客:訪日インバウンドカレンダー
タイからの訪日傾向は2017年以降大きな変化はなく、コロナ後は訪日者数の伸びが緩やかになっていますが、依然として人気のシーズンに集中しています。訪日タイ人観光客は、桜や紅葉のシーズンを好み、タイ正月(ソンクラーン)のある3月〜4月、また雨季と乾季の境目である10月にピークを迎えます。さらに、12月には日本の雪景色を見たいという需要が高まり、訪日客数が増加する傾向が見られます。
3.8 シンガポール人観光客:訪日インバウンドカレンダー
シンガポールからのインバウンドを狙う場合、お正月シーズンは桜シーズンの2倍の集客が期待できます。毎年11月末から12月末に渡る長期学校休み期間ですので、学校休みを狙って家族で長期間旅行する方も多いです。シンガポール人観光客は、日本の雪景色を楽しむために訪れており、特にクリスマスや年末年始に日本で過ごす傾向があります。ファミリー層を狙う場合、学校の新学期が1月2日から始まるため、多くの家族はその前にシンガポールに戻り、準備を整えることが多いです。
コロナ前の2019年までの傾向でも、訪日シンガポール人が最も増加するのは12月でした。一方で、8月に訪日客が減少する点で、元々暑い場所から他の暑い場所に旅行するのを好まないです。2023年には、コロナ前を上回る訪日者数を記録し、過去最高を更新しました。
3.9 カナダ人観光客:訪日インバウンドカレンダー
カナダからの訪日観光客はフライト時間が長いため、年間を通じて大きな変動は少ないものの、特に3月の春シーズンにピークが見られます。コロナ後、米ドルだけでなくカナダドルに対しても円安が進行し、それによりインバウンド消費額が増加、2024年の訪日カナダ人客数(赤線)が大きく伸びています。今後、さらに市場規模が拡大することが期待されます。
3.10 英国人観光客:訪日インバウンドカレンダー
英国からの訪日観光客は、3月と10月に大きなピークが見られますが、それ以外の時期は比較的安定した人数の推移を示します。特に、3月から4月には桜シーズンとイースター休暇の影響でピークが訪れ、10月には紅葉シーズンと学校の秋休みが重なるため、もう一つの大きなピークとなります。加えて、円安の影響で2024年の訪日客数(赤線)は大きく増加しています。7月の夏休み・バカンスシーズンも一応ピークとなりますが、カナダ同様、他のシーズンほどの盛り上がりには欠ける印象です。
3.11 フランス人観光客:訪日インバウンドカレンダー
フランスからの訪日観光客は、タイやアメリカと同様に非常に安定した傾向を示しており、毎年少しずつ人数が増加しています。特に、4月、7月、10月が最も人気のタイミングであり、逆にお正月は訪日客が少ないシーズンとなっています。コロナ前の2019年には訪日フランス人がヨーロッパでイギリスに次いで2番目の多さを記録し、ヨーロッパ第2位の訪日客数を維持しています。
フランスからの訪日観光客は、滞在期間が長い傾向が特に強く、2023年第3四半期のデータでは、2週間以上の滞在が全体の65.5%を占め、3週間以上滞在した人も26.8%に達しています。このような長期滞在の傾向から、消費額も高く、今後のさらなる市場規模の拡大が期待されます。
3.12 フィリピン人観光客:訪日インバウンドカレンダー
フィリピンからの訪日観光客は、桜と秋のシーズンが最も人気のある時期となっています。コロナ後、訪日人数は約2倍に増加しています。コロナ前の2019年には、訪日フィリピン人が最も多かったのは12月で、次いで4月でした。また、10月から11月にかけても人気がありました。夏季、特に8月は訪日客数が減少傾向にありましたが、コロナ後の2024年もこの傾向はほぼ変わりませんでした。
3.13 ベトナム人観光客:訪日インバウンドカレンダー
コロナ前の2019年までの傾向では、訪日ベトナム人は4月に最も多く訪れていました。一般的に東南アジアからの訪日外国人は冬季が人気ですが、ベトナム人に関しては4月の桜シーズンがピークでした。また、夏季にも大きな減少は見られず、年間を通して安定した需要があるのが特徴です。2023年と2024年のデータを見ると、訪日数が最も多いのは3月で、次いで4月が続きました。年間を通して訪日数は安定しており、春季に加えて8月と10月の人気も高まっていることが伺えます。
3.14 インドネシア人観光客:訪日インバウンドカレンダー
インドネシアからの訪日観光客にとって最も忙しいシーズンは、毎年日程が異なるレバラン(断食明け大祭、3月〜6月ごろ)、年末年始の休暇、そして桜シーズンの4月です。特に、雪を観に訪れる時期としても人気があります。2024年のデータによると、お正月シーズンと同程度の人気を誇り、桜を見に訪れるインドネシア人も増加しました。インドネシアの人口の80%以上がムスリム教徒で、毎年の断食明け大祭(ラマダン後の休暇)には、日本や海外への旅行が盛況です。ラマダンの時期は毎年異なりますが、2022年から2026年にかけては、2月下旬から4月までの期間が多く、この時期は桜シーズンと重なるため、訪日旅行者にとって特に人気があります。そのため、食事制限を考慮した特別なハラル・ムスリムフレンドリーの食事プランやイベントを提供することが、インバウンド対策として効果的です。
4.まとめ
上記の情報をもとに、28か国の訪日者データをまとめたグラフをご紹介します。最も多く訪日している時期は、グラフ上で緑色が濃く表示されています。
英語圏(英国、米国、カナダ、豪州、ニュージーランド)では、4月と10月が訪日ピークの時期となっており、特に豪州とニュージーランドでは12月の夏休みシーズンが人気です。
これらの時期は、各国市場をターゲットにした観光プロモーションを展開する絶好のチャンスです。全体的に見ると、意外にも10月の訪日人数が桜シーズンの4月を上回っており、今後のキャンペーンやプロモーションを考える際の重要な参考になります。ヨーロッパでは4月と7月がピークとなり、アジアでは12月に大きなピークが見られます。
これらのデータを基に、特別な宿泊プランや季節のイベントを組み合わせたキャンペーンを企画し、インフルエンサーの力を活用して施設に注目を集め、SNSや現地広告を通じて日本の魅力を積極的に発信することで、訪日意欲をさらに高めることが期待されます。このアプローチは、インバウンド対策のモデルケースとして活用できるでしょう。
インバウンド対策ラボ(アビリブグループ)では、インバウンドプロモーションのインバウンド対策支援を行っています。特にホテルや旅館など、宿泊・観光業の実績多数。これまでの知見を活かしたご提案をさせていただきますので、まずはお気軽にご相談ください。