訪日インバウンド市場において、SNSは単なる情報発信手段ではなく、旅行先選定・消費行動・来訪後の拡散までを左右する中核的なマーケティング基盤である。
しかし、各国で主流となるSNSは大きく異なり、日本国内向け施策をそのまま転用しても十分な成果は得られない。
本稿では、訪日客数が多い主要7か国を対象に、それぞれで支配的なSNSプラットフォームの特徴、利用背景、ユーザー行動、そして実際に成果を出すための具体的な運用・広告・コンテンツ戦略を詳細に解説する。
1. 韓国
主要SNS:Instagram / YouTube / KakaoTalk
韓国ではInstagramとYouTubeが情報収集と消費意思決定において極めて強い影響力を持つ。
Instagramの韓国国内利用者数は約2,300万人と推定されている。
(出典:DataReportal “Digital 2024: South Korea” https://datareportal.com/reports/digital-2024-south-korea )
Instagramの特徴と活用戦略
✔ 短尺動画(Reels)中心のアルゴリズム
✔ 写真単体よりも動画コンテンツの方がリーチが拡張されやすい
✔ 旅行・グルメ分野ではインフルエンサー経由の疑似体験型投稿が特に強い
Metaは、Reelsが通常投稿より高いエンゲージメントを生みやすいと公式に言及している。
(出典:Instagramアルゴリズムのリーチ増加戦略 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000165.000002036.html )
2. 中国
主要SNS:WeChat / Weibo / Xiaohongshu(RED)
中国では海外SNSが政府規制により利用できないため、国内向けに最適化された独自のSNSエコシステムが発展している。この制度的背景により、中国の消費者は情報収集、比較、予約、決済までを同一プラットフォーム内で完結させる行動様式を持つ。
WeChatの月間アクティブユーザー数は13億人を超えており、中国社会における生活インフラとして機能している。
(出典:Tencent Annual Report 2023 https://www.tencent.com/en-us/investors/financial-reports.html )
実務におけるWeChatとRED(小紅書)の使い分け
WeChatは訪日中・訪日後の行動管理に強く、Xiaohongshu(RED)は訪日前の検討フェーズに強い。REDでは広告的表現よりも、実体験ベースのレビュー形式が圧倒的に信頼される。
3. 台湾
主要SNS:Facebook / Instagram / LINE
台湾はアジア圏の中でもSNSの浸透率が極めて高く、旅行情報の収集・比較・意思決定においてSNSが中心的な役割を果たしている。特にFacebookは、台湾社会における主要な情報インフラとして機能しており、台湾人口の約90%が利用しているとされる。
(出典:DataReportal “Digital 2024: Taiwan” https://datareportal.com/reports/digital-2024-taiwan )
台湾ユーザーの特徴として、旅行先を感覚的に選ぶよりも、事前に十分な情報を収集し、他者の体験を比較した上で判断する傾向が強い点が挙げられる。このため、単なるビジュアル訴求や短いコピーでは意思決定に結びつきにくく、情報の具体性と信頼性が重視される。
Facebookが持つ実務的な意味
台湾におけるFacebookは、日本市場におけるXやInstagramとは異なり、検索・保存・再訪される「情報データベース的SNS」として利用されている。旅行関連の投稿では、長文の説明、複数の写真、地図情報、価格帯、所要時間といった具体的な情報が含まれている投稿ほど、保存率やシェア率が高くなる傾向がある。
また、Facebookグループの影響力も非常に強く、「日本旅行」「関西旅行」「東京グルメ」などのテーマ別グループ内での口コミが、実際の訪問先決定に直接影響するケースが多い。
InstagramとLINEの補完的役割
台湾ではInstagramも広く利用されているが、Facebookほど情報収集には使われず、旅行中・旅行後の記録共有としての側面が強い。Instagramでは、洗練されたビジュアルよりも、親しみやすさやリアルさが評価されやすく、過度に広告的な演出は逆効果となる場合がある。
一方、LINEは台湾において主要なコミュニケーションインフラであり、企業アカウントを通じた情報配信やクーポン提供は、来店・再訪を促す手段として有効である。
4. 香港
主要SNS:Instagram / Facebook / YouTube
香港はデジタルリテラシーが非常に高く、SNSが日常的な情報取得手段として深く根付いている市場である。特に旅行分野においては、Web検索よりもSNS上のビジュアルコンテンツや実体験投稿が重視される傾向が強い。Instagramはその中心的存在であり、若年層からミドル層まで幅広い年齢層に利用されている。
Instagram広告の推定リーチは、香港人口の約70%に相当するとされている。
(出典:Meta Ads Audience Insights https://www.facebook.com/business/tools/ads-manager )
この数値が示す通り、Instagramは香港市場において単なる若者向けSNSではなく、旅行情報を発見し、比較し、判断するための主要チャネルとして機能している。
Instagramが果たす役割とユーザー行動
香港ユーザーは、旅行先を選ぶ際に「洗練された非日常体験」を重視する傾向があり、投稿の第一印象となるビジュアル品質に対する要求水準が非常に高い。そのため、画質の低い写真や、構図が整理されていない投稿は、内容に関わらずスキップされやすい。
一方で、過度に作り込まれた広告的ビジュアルも、信頼性の観点から敬遠される傾向がある。評価されやすいのは、高品質でありながら実体験に基づいた自然な投稿であり、特に宿泊施設、レストラン、景観スポットに関する投稿では、「自分がその場にいるイメージができるか」が重要な判断基準となる。
5. アメリカ
主要SNS:Instagram / YouTube / TikTok
アメリカのSNS市場は多層構造を持ち、Instagram、YouTube、TikTokがそれぞれ異なる役割を担いながら、旅行情報の認知形成から意思決定までを構成している。その中でも近年、旅行先発見(Discovery)フェーズにおいて最も強い影響力を持つプラットフォームがTikTokである。
TikTokのアメリカ国内月間アクティブユーザー数は1億5,000万人を超えており、SNSの中でも最大級のリーチ規模を持つ。
(出典:DataReportal “Digital 2024: United States” https://datareportal.com/reports/digital-2024-united-states-of-america )
この数値が示す通り、TikTokは若年層向けアプリにとどまらず、旅行・消費行動全体に影響を与える大衆的発見メディアへと進化している。
アメリカ市場における効果的コンテンツ構造
アメリカ人旅行者は、情報量の多さよりも短時間で価値が伝わる構成を重視する傾向が強い。そのため、TikTokにおける旅行コンテンツでは、「景色」や「施設紹介」ではなく、体験の瞬間(食べる瞬間、入る瞬間、到着する瞬間)を切り取った構成が最も高い反応を生む。
また、説明的ナレーションよりも、字幕による簡潔な情報提示が好まれ、長文説明は視聴離脱につながりやすい。
6. タイ
主要SNS:Facebook / Instagram / TikTok
タイはASEAN諸国の中でもSNS利用率が非常に高く、訪日インバウンド市場においても重要度の高い国の一つである。特に若年層から中間所得層を中心に、旅行計画、情報収集、購買意思決定のほぼ全プロセスがSNS上で完結する傾向が強い点が特徴である。タイで最も影響力のあるSNSは Facebook、Instagram、YouTube、TikTok、LINE である。Facebookは依然として最大規模のSNSであり、タイ国内の月間アクティブユーザー数は5,000万人を超えるとされている。
Facebookが強い理由として、早期からスマートフォンとセットで普及したこと、実名文化に近い使われ方、そして「情報取得」「コミュニティ形成」「購買導線」が1つのプラットフォーム内で完結する点が挙げられる。
一方、若年層を中心に急速に影響力を拡大しているのがTikTokであり、タイのTikTokユーザー数は4,000万人規模と推計されている
(出典: DataReportal “Digital 2024: Thailand” https://datareportal.com/reports/digital-2024-thailand )
ユーザー行動と旅行文脈での特徴
タイのSNSユーザーは「視覚的に分かりやすい体験価値」を非常に重視する傾向がある。旅行分野では、以下のようなコンテンツが強く反応を得やすい。
✓ 実際の体験を短時間で疑似体験できる動画
✓ 食、ショッピング、季節イベントなど感情に訴求する映像
✓ 「行ってみたい」「真似したい」と感じさせる日常目線の投稿
特にTikTokとInstagram Reelsでは、完成度の高い広告的映像よりも、スマートフォンで撮影されたリアルな体験動画の方が高いエンゲージメントを獲得しやすい。
7. オーストラリア
主要SNS:Facebook / Instagram / YouTube
オーストラリア市場におけるSNS活用の本質は、信頼性・透明性・実体験の共有にある。オーストラリア人旅行者は広告的な表現に対する耐性が低く、「売り込み感」を強く感じるコンテンツは敬遠されやすい。その一方で、実体験に基づく情報や第三者視点のレビューには高い信頼を寄せる傾向があるため、SNS施策では情報の誠実さと具体性が成果を左右する。Instagram利用率は約65%。
(出典:DataReportal “Digital 2024: Australia” https://datareportal.com/reports/digital-2024-australia )
コンテンツ設計では、「どのような体験ができるか」だけでなく、「どのように行き、どれくらいの時間や費用がかかり、現地で何が起こるのか」を具体的に想像できる構成が重要となる。高級感や特別感を強調するよりも、実際の行動導線や過ごし方を丁寧に伝える方が、検討段階での不安解消につながりやすい。
動画コンテンツにおいても、短尺であっても過度な編集や刺激的な演出は避け、自然なテンポと落ち着いたトーンを保つことが効果的である。初めて日本を訪れる層を前提に、映像と字幕を組み合わせて必要な情報を分かりやすく伝えることで、保存や再視聴につながりやすくなる。
インフルエンサー施策では、フォロワー数よりも発信内容の透明性と信頼性が成果を左右する。広告であることを明示しつつ、自身の言葉で体験を説明できるクリエイターは高い影響力を持つ一方、宣伝色が強すぎる投稿はブランド価値を損なうリスクがある。
オーストラリア向けのSNS活用では、SNSを集客手段にとどめず、訪日前の信頼形成プロセスの一部として捉える視点が不可欠である。誇張を避け、必要な情報を誠実に伝えることが、安定した送客と評価につながる。
まとめ
訪日インバウンドにおけるSNS活用は、単なる情報発信ではなく、国ごとの旅行者行動や意思決定の特性を踏まえて設計すべき戦略的施策である。主要7か国はいずれも訪日需要が高い一方、SNSに求める役割や信頼の基準は大きく異なる。
重要なのは、使用されているSNSの種類そのものではなく、その国の旅行者がSNS上で何を判断材料としているかを理解することである。感情的な疑似体験を重視する市場もあれば、具体的で透明性の高い情報を重視する市場もあり、画一的な運用では実際の送客にはつながりにくい。
SNSは広告の場であると同時に、訪日前の不安を解消し、信頼を形成する接点でもある。誇張を避け、実体験に基づいた具体的な発信を継続することが、結果として持続的なインバウンド集客につながる。
インバウンド対策ラボ(アビリブグループ)では、 海外インフルエンサー ・ インバウンドプロモーション のサービスなどのインバウンド対策支援を行っています。特にホテルや旅館など、宿泊・観光業の実績多数。これまでの知見を活かしたご提案をさせていただきますので、まずはお気軽にご相談ください。







